2022-04-18
遠い山なみの光
春になると
暗いトンネルの奥に
自ら身を投じていく人を
もう私の生きてきた三分の一ほど
隣で見てきたものだから
慣れているとわかっているはずなのに
嵐の夜が来るたびに
私はどうしようもなく打ちのめされて
記憶の中の幸福でさえ
跡形もなく粉々になるのだけれど
蜘蛛の糸を掴むように
ひとすじの光を手探りで手繰り寄せては
何事もなかったように
その夏と秋と冬を人のぬくもりで過ごし
けれど
もうないのだ
心は、私の心は
ただ空に舞う埃のように
やすやすと散り
そしてこれらは私が望んだものなのかと
愕然とするのだ
春になると
私は愕然とするのだ